電子決済手段や暗号資産の「管理」とは何か?

【中央省庁の元法制度担当の弁護士による解説コーナー ~資金決済法編~】
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 資金決済法には、電子決済手段(ステーブルコイン)や暗号資産について、「他人のために○○の管理をすること」が業規制の対象行為として規定されています。(資金決済法第2条第10項第3号、同条第第4号)
 この「他人のために○○の管理をすること」という部分は、一般的には、電子決済手段や暗号資産の管理を主な業務とする「カストディ業」等を想定していると説明されることが多いです。

 では、この「○○の管理をすること」というのは、具体的に何を意味するのでしょうか?
 資金決済法には、「管理をすること」や「管理」という用語について、特別な定義規定は置かれていません。そのため、「管理」という用語は、法律上の一般的な意味を指すものと考えられます。
 そして、例えば『有斐閣 法律用語辞典(第5版)』によると、「管理」の意味として、「財産、権利等について、その性質を変更しない範囲内での保存、利用、改良を目的とする行為」とされていますので、資金決済法における「管理」も同様の意味であるとするのが素直ではないかと考えます。

 では、上記を前提とすると、電子決済手段や暗号資産のようなデジタルデータ等の(性質を変えない範囲内における)「保存行為」、「利用行為」、「改良行為」とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。
 この点、金融庁が公表する(電子決済手段取引業者や暗号資産交換業者に関する)事務GL(※)によると、「電子決済手段・暗号資産の管理をすること」には、「利用者の関与なく、単独又は関係事業者と共同して、利用者の電子決済手段・暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合」など、「事業者が(主体的に)利用者の電子決済手段・暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」が含まれるとされています。
 もっとも、「利用者の電子決済手段・暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」というのは、一見すると、ただ単に電子決済手段・暗号資産を(排他的に)支配している状態、すなわち「保持」していることを表しているにすぎず、それ自体が直ちに「保存行為」、「利用行為」、「改良行為」のいずれにも該当するものではないようにも思えてしまいます。
 というのも、「保存行為」とはそれを保持するという消極的な行為にとどまらず、その現状維持のために行う積極的な行為を指すものと考えられますし、「利用行為」や「改良行為」とはそれを役立てたり、価値を増加させたりする行為を指すものと考えられるので、単に電子決済手段・暗号資産を移転しうる状態にあるだけではこれらの行為には該当するようには思えないからです。
 ただし、「保存行為」には、それを「保持」するという消極的な行為のみでも含まれうるという考え方もあり得ますので、この考え方を前提にするのであれば、金融庁が公表する事務GLにおいて言及される「利用者の電子決済手段・暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」とは、結局のところ、「管理行為」のうちの「保存行為」の更に一部分のみにスポットライトを当てて言及するものということになります。

 このように「他人のために○○の管理をすること」の意義を検討してみると、資金決済法第2条第10項第3号や同条第第4号に規定する行為は、金融庁が公表する事務GLにて言及されるような、秘密鍵を保有する場合等の「事業者が(主体的に)利用者の電子決済手段・暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」だけが該当するものであると限定的に解釈することは妥当ではないことが分かります。「管理」という用語が法律上選択されている以上は、上記事務GLの記載にかかわらず、「保存行為」や「利用行為」、「改良行為」と言える行為は、広く「他人のために○○の管理をすること」に該当する可能性は十分にあるのではないかと考えられます。

  なお、例えば、電子決済手段・暗号資産を対価として発行される前払式支払手段であって、加盟店への清算において利用者から受け入れた電子決済手段・暗号資産を移転させる仕組みを採っているようなものについては、他人のために電子決済手段・暗号資産を保持している行為と評価できますので、上記事務GLの考え方を前提にしても、「他人のために○○の管理をすること」に該当していると言い易くなり、電子決済手段等取引業者や暗号資産交換業者の登録が必要になるケースが多いのではないかと考えられます。

※事務ガイドライン(電子決済手段等取引業者関係):
 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/17.pdf
 事務ガイドライン(暗号資産交換業者関係):
 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf

記事作成・監修:弁護士 境 孝也
(なお、本記事は、執筆者が過去に所属・関与し、又は現在所属・関与する組織・機関の見解を記載するものではなく、執筆者の個人的な見解を記載するものです。)

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